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Cloud Wrapper のご紹介

執筆者

Masahiko Suzuki

August 13, 2020

執筆者

Masahiko Suzuki

はじめに

弊社Akamaiの多くのお客様において、Mediaコンテンツ (動画サービス、ゲームパッケージ等) の安定的な配信のため、Akamai Platformを基盤とした主要サービスであるCDNをご活用いただいています。一方で、AkamaiではCDNのみならず、オリジン側の様々な課題を解決するためのソリューションを提供しており、本Blogではその内の一つである「Cloud Wrapper」についてご紹介をさせていただきます。

本ソリューションの導入により、オリジンが稼働しているPublic Cloudの利用コストの削減が見込まれ、さらにコンテンツ配信の安定性の向上も期待されます。

Cloud Wrapperとは

一般にCDNを利用する際は、オリジンのオフロード率を最大限に高め、オリジンサーバの負荷を軽減することが重要とされています。
オフロード率をあげることによる一つのメリットとして、配信パフォーマンスの安定性向上があげられますが、さらにここ最近では、オリジンがAWS, GCP, Azure等のPublic Cloud上で構築されているとき、Public Cloudの利用コストを削減する目的でオフロード率向上を目指すケースが多く見受けられます。例えば、Public Cloudからインターネットへ抜けるEgressトラフィック (下りトラフィック) の流量が増えるほどPublic Cloud側への支払いも大きくなりますし、またオリジンへのリクエスト数が多くなるほどPublic Cloud内のコンピューティングリソースを多く消費し、コスト増へつながります。つまり、Public Cloudの利用コストを抑えるためには、いかにCDNのレイヤにおいてオフロード率を高め、オリジンへ到達するリクエスト量を減らすかが重要となります。

しかしながら、基本的にCDNのキャッシュ領域は複数顧客で共有されるため、一度キャッシュされたコンテンツでもその後ユーザーからのアクセスが長期間ない場合は、キャッシュ領域から削除されてしまいます。このような、ユーザーからのアクセス頻度が少ないロングテールコンテンツを大量に保持されているお客様では、オフロード率が期待するほど高く保てないということが起こり得ます。
その対応の一つとして、これまでAkamai CDNではオフロード率を高めるため階層化キャッシュの仕組みを提供し、エッジサーバを「子エッジサーバ群」および「親エッジサーバ群」と階層化することでキャッシュが押し出されないサーバ群を増やすことにより、キャッシュ効率を高めていました。本仕組みにおいても十分に高いオフロード率を実現可能なケースが多くありますが、コンテンツやユーザアクセスの特性によっては十分なオフロード率が得られず、結果としてオリジンへのトラフィックが増え、Public Cloud側のコスト増を招いてしまう場合があります。

ここで、さらなるオフロード率向上を実現するために、Cloud Wrapperが登場します。
本ソリューションでは、Akamai Platformからお客様向けの「占有のキャッシュ領域」を提供し、Cloud (お客様のオリジンが存在するPublic Cloud環境) をWrapする (お客様占有のキャッシュ領域で包み込む) ことにより、オフロード率の最大化を図ろうというアプローチになります。これにより、オリジンへ向かうHTTPリクエスト数が最小化され、Egressトラフィックおよびコンピューティングリソース消費を極力抑えることで、Public Cloudの利用コストの削減が可能となります。
また、Cloud WrapperはPublic Cloud側のネットワーク設定や、ワークフロー等の変更なしに導入できることも大きなメリットの一つと言えます。

以下のグラフはCloud Wrapperを導入したお客様の一例となりますが、Cloud Wrapperの導入時点からオフロード率向上 (緑グラフ) およびオリジントラフィック削減 (青グラフ) の効果が見て取れると思います。

Cloud Interconnect

Akamai Platformでは様々なクラウド事業者と専用線接続を行なっており、この仕組みをCloud Interconnectと呼んでいます。これにより、First Mile (オリジンからAkamai Platformまでのネットワーク接続) の通信の品質向上を実現しますが、さらに一部のクラウド事業者 (本Blog執筆時点でGCP, Azure) ではCloud Interconnect経由でAkamai Platformへトラフィックを送出する際に、クラウドの利用者に対して請求するEgressトラフィックのコストを割引する仕組みを持っています。
本BlogのメイントピックであるCloud Wrapperは、Cloud Interconnectと互換性があるため、組み合わせ利用することでさらなるコスト削減が見込まれます。

コスト削減効果のケーススタディ

Cloud Wrapperにより、具体的にどのくらいのPublic CloudのEgressトラフィック削減によるコスト削減が見込めるか、ケーススタディとして考えたいと思います。前提条件を以下とします。

  • 月間のCDNデータ配信量は10PB
  • オフロード率はCloud Wrapper導入前で95%、導入後99%
  • オリジンはGCP (Google Cloud Platform) を利用
  • データ配信先は日本国内のユーザ
  • 為替レートを1$あたり105円とする

◾️Cloud Wrapper導入前
CDNの月間のデータ配信量が10PB、オフロード率が95%という前提より、月間のオリジンのEgressトラフィック量は 10PB * 5% = 500TB となります。
GCPのネットワーク使用量は以下の単価表を参照し、$0.08/GB (本Blog執筆時点) とすると、Egressトラフィックにより生じる月額コストは 500TB * $0.08/GB = $40,000 = 420万円 となります。

GCPネットワーク使用料

◾️Cloud Wrapper導入後
CDNの月間のデータ配信量が10PB、Cloud Wrapper導入によりオフロード率が99%へ向上するという前提より、月間のオリジンのEgressトラフィック量は 10PB * 1% = 100TB となります。
よってEgressトラフィックにより生じる月額コストは 100TB * $0.08/GB = $8,000 = 84万円 となります。

◾️Cloud Wrapper + Cloud Interconnect導入後
Cloud Interconnectを導入すると、GCP Egressトラフィックの単価が下がります。この場合のネットワーク使用量は以下の単価表を参照し、$0.06/GB (本Blog執筆時点) とすると、Egressトラフィックにより生じる月額コストは 100TB * $0.06/GB = $40,000 = 63万円 となります。

GCPネットワーク使用料 (Cloud Interconnect使用時)

◾️まとめ
各構成パターンによるGCP Egressトラフィックの月額コストの比較表を以下に示します。

非常に多くのPublic Cloudに要するコストが削減できることが分かるかと思います。
実際には弊社Cloud Wrapperをご利用するための費用も発生するため、上記表のコスト削減効果をそのまま受けられるわけではありませんが、それを踏まえたとしても全体的なコスト削減が期待されます。

配信パフォーマンスの安定性向上

これまで述べてきたようなPublic Cloudのコスト削減効果のみならず、Cloud Wrapperの導入により配信パフォーマンスの安定性向上が見込めることも大きなメリットの一つとなります。

Cloud Wrapperの仕組みでは、配信対象のコンテンツに対する占有キャッシュ容量の調整がお客様側で可能であり、従来ベストエフォートで提供されていたキャッシュヒット率を、お客様自身でコントロールすることができます。

非常に高い可用性を持つAkamai Platform上でほぼ全てのキャッシュを持ち切るような運用を実現することで、オリジンサーバのサービスレベルに左右されることなく、自社コンテンツの可用性を高め、安定した配信パフォーマンスを提供することができるようになります。

占有キャッシュ領域の分析

Cloud Wrapperで十分なオフロード率を実現するためには、予めどのくらいの占有キャッシュ領域を用意する必要があるか判断する必要があります。お客様側でオリジンのコンテンツ容量から必要量が判断できれば良いですが、そのような判断が難しい場合もあると思います。
このようなケースを踏まえ、AkamaiではFoot Print Analysisと呼ばれるツールをリリースしています。Akamai CDN経由で配信されたコンテンツのトラフィックパターン・特性に基づき、どのくらいの占有キャッシュ領域を持てば、どのくらいのオフロード率が見込めるかシミュレーションできるツールとなります。


以下はシミュレーションの一例となりますが、横軸の占有キャッシュ容量の値に応じ、縦軸のように期待されるオフロード率の値 (Volume, Hit数) を確認することができ、適切なCloud Wrapperの占有キャッシュ容量を見積もった上でご契約の検討が可能となります。

本ツールをセットアップできるのはAkamai社員のみとなりますので、ご要望がありましたら弊社担当までご連絡をお願いします。

Cloud Wrapperソリューションがマッチするお客様

Cloud Wrapperのメリットを享受できるお客様の特徴としては以下があげられます。

  • オリジン側で大規模なコンテンツライブラリを持ち、ロングテールコンテンツを含む
  • コンテンツが動画サービス (VOD、Live、Simulcast)、ゲームパッケージ、ソフトウェアなど
  • オフロード率やPublic Cloudのコスト (Egressトラフィック、コンピューティングリソース等) に課題がある
  • 大容量のオリジンヒットや、トラフィックスパイクの処理に課題がある

一方で、既に高いオリジンオフロード率を達成・維持できているお客様や、オリジンとしてAkamaiの別サービス (NetStorage, Media Service Live等) をご利用されているお客様は、Cloud Wrapperの導入メリットが少ないものと考えられます。

さいごに

本Blogではオフロード率向上を実現し、Public Cloudのコスト削減や、配信の安定性向上を実現可能なCloud Wrapperについてご紹介させていただきました。現時点ではAkamai Media Product (AMD, DD, OD) のみのサポートとなりますが、将来的にAkamai Web Product (ION, DSA) でも利用可能となるロードマップがあります。
また、今回のご説明ではオリジンがPublic Cloudに存在する前提のシナリオとさせていただきましたが、オリジンがオンプレミスに存在するケースでもCloud Wrapperをご利用いただくことが可能です。あわせて、ご活用をご検討いただけると幸いです。



執筆者

Masahiko Suzuki

August 13, 2020

執筆者

Masahiko Suzuki