©2025 Akamai Technologies
パーソナライゼーションの課題をエッジコンピューティングで解決へ
カタログ通販の老舗として女性を中心に人気を誇るニッセンは、インターネット通販事業にも注力している。中核のニッセンオンラインのほか、プラスサイズ専門のブランドファッションECモールを運営したり、他のECモールへマルチブランドで多店舗出店したりと、独自のサービス展開が特徴的である。買い物客のひとりひとりが思い描く「あったらいいな」という希望を想像以上のカタチで実現するという理念の下、“期待以上にいいな”という感動を届けることがニッセンのミッションだ。そこで同社は、インターネット通販上での上質な買い物体験やサービスの提供には、一切の妥協をみせない。
「私たちのミッション・ビジョン・バリューを支持するためのものとして、ITには積極的に取り組んできました。安定的な仕組みとして構築・運用することはもちろん、お客さまに価値を届ける“攻めのIT”としての戦略も早くから注力しています」と、ニッセンホールディングス 経営推進本部 IT戦略推進部の加藤雄一氏は述べる。
インターネット通販において、ECサイトのパフォーマンスは非常に重要な要素の1つである。スムーズに商品を閲覧・購入できなければ、ユーザーは容易に競合サイトを選んでしまう。そのため、ニッセンでは、事業の初期からAkamai Connected Cloud を活用し、ECサイトのパフォーマンス維持・向上に努めてきた。また近年は、ユーザーのデータ保護なども事業者の責務と考えられるようになり、Akamaiのセキュリティソリューションを積極的に活用して安全性向上を図っている。
しかし、インターネット通販事業を始めた当時と比べて、Web技術やデバイス環境も大きく変化・進化している。特に重要なのが、個人の好みや活動に合わせたパーソナライゼーションが重視されるようになった点だ。CDN技術は、静的コンテンツのデータをユーザーに近接したエッジにキャッシュすることで、高速にWebページを表示できるという利点がある。一方、パーソナライゼーションは、ユーザーの属性や購買履歴に応じて、より適切なコンテンツを動的に表示させる技術であり、都度API処理が発生する点に課題があった。
「APIの呼び出しが増大し、ページの表示に対するパフォーマンスと負荷の課題を解決する必要がありました。取り扱っている商品が非常に多く、顧客ごとのリコメンデーションなど、APIリクエストに含まれるクエリーのパターンが複雑すぎて、CDN のキャッシュヒット率に課題がありました。バリエーションに富んだAPIリクエストが原因でオリジンサーバーに掛かっていた負荷を、もっと効率的にエッジにオフロードできる方法はないかと考えていました。」と、経営推進本部 IT戦略推進部の新居宏紀氏は振り返る。
そこで解決策として検討されたのが、エッジコンピューティング技術だ。エッジ上の処理でクエリーに含まれる商品コードの要素を分解したうえでデータを保管できれば、キャッシュのヒット率が飛躍的に向上し、オリジンサーバーの負荷を下げてサーバーにかかるコストを削減し、ユーザーエクスペリエンスも向上できる。
Akamaiでは、EdgeWorkersで、独自のカスタムロジックをエッジサーバー上に実装できるサーバーレスエッジコンピューティングを、EdgeKVで、エッジで駆動するキーバリューストア型のデータベースを提供している。
加藤氏らは、Akamai を長く活用してサービスを信頼していた。そこで、EdgeWorkersとEdgeKVの導入を決定した。また、フロントエンドのエンジニアが使い慣れた JavaScript でコーディングができるため、社内のスキルを活用できることも決め手の1つだった。
「Akamai の高品質なサービスを手放すことはできません。Akamai は長年にわたって当社を支えてくれており、ニッセンオンラインの特徴もよくわかって、今回も的確なアドバイスで当社を技術面からサポートしてくれました。」(加藤氏)
複雑なクエリーをエッジで分割処理して最適化
これまでのニッセンオンラインでは、あるユーザーがアクセスするとき、ブラウザ/アプリから複数のアイテム(商品コード)を羅列した長いリクエスト(URL)が投じられていた。
例えば商品A、B、C、Dがあるとき、A+B、B+C+D、C+Dは別々のリクエストとして判別される。商品のアイテム数は3万点以上もあり、その組み合わせパターンが膨大になるので、キャッシュのヒット率が悪くなる。その結果、多くのリクエストがオリジン側で処理されてしまう。
そこでニッセンは、複雑で長いリクエストが来ても、エッジ上のEdgeWorkers でリクエストを分解し、効率的にキャッシュヒット率を高めるコードを開発した。またEdgeKVを併用し、分散データベースに商品データを格納したことで、オリジンに届くクエリーの数を減らし、劇的にサーバーの負荷を改善することができた。
「複雑なパターンのクエリーの多くをエッジにオフロードして処理できるようになり、APIの応答性能が6倍高速化しました。その結果、サイトのパフォーマンスも改善され、ユーザーエクスペリエンスが向上しました。そもそも、エッジで商品コードごとにクエリーを分割するという、これまでできなかったことが可能になったという点で、エッジコンピューティングに大きな価値を感じています」(新居氏)
パフォーマンス向上がさまざまな販売施策に貢献
かつてのニッセンオンラインでは、アクセス集中時のパフォーマンス劣化を懸念して、SNSを活用したプロモーションなどを控えてもらうケースもあった。現在の基盤は、さまざまな施策を余裕をもって受け止められるようになったため、事業部門でもともとやりたかったサービスやコンテンツを積極的に企画できるようになった。
今回ニッセンが開発したプログラムと取り組みは、世界中のECサイトが抱える同様の課題を解決できる先進的なアイデアとして、Akamai が実施した「APJ EdgeWorkers コーディングコンテスト」で優勝を勝ち取った。機能性や革新性はもちろん、社会的なインパクトの可能性も高く評価された結果だ。
ニッセンでは、いっそう買い物を楽しめるように、パーソナライゼーションやレスポンス向上など技術的な取り組みを一層強化していきたいと考えている。そのための機構を実装する基盤として EdgeWorkersへの期待値は高く、さらなる応用範囲の可能性を感じている。
加藤氏は最後に、「Akamai の手厚い支援をありがたく思っています。例えば、日々の運用においてできることとできないことをはっきりと答えたうえで、それを解決する提案をしてくれるなど、信頼できるサポートが印象的です。今後もインターネット通販業界は、リッチコンテンツやセキュリティなど、さまざまな取り組みでお客さまへのサービス強化に努めなければなりません。今後もニッセンのビジネスを支えてくれるパートナーとして、大いに活躍していただきたいと思います」と、Akamai への熱い期待を述べた。